小説:「何者」
「何者」
小説紹介の第1回は、私が1番好きな作品を紹介します。
私が1番好きな作家さんはお二人いらっしゃるのですが、そのうちの1人が朝井リョウさんです。
そして「何者」は、私がたくさん小説を読んできた中で、1番好きな小説だと自信を持って言える作品です。
朝井リョウさんはこの「何者」で直木賞を戦後最年少記録で受賞。
当時はかなり話題になりました。
最初に言っておきます。
私は、今を生きる若者にこそ、この「何者」を読んでもらいたい。
それでは、簡単なストーリー紹介を。
「何者」は、就活中の5人の大学生が、一つの部屋に集まって共に就活対策をしていく日々を描いたストーリー。
5人で集まって、エントリーシートの添削をしたり、就活情報をお互い伝えたりするわけです。
そして彼らは、みんなツイッターをしています。
毎日スマホ片手にツイッターに近況を書き込んだり、互いの書き込みを閲覧したり。
まさに今時の若者。
しかし、彼らがツイッターに書き込む内容はすべて建て前。
その裏には、嫉妬や自尊心、劣等感など、他人に言えないようなどす黒い感情が隠されている。
そしてある日、5人のうちの1人が内定をもらったことで、彼らの絆は少しずつ崩れていく・・・。
あらすじは、ざっとこんな感じです。
この作品の魅力は何と言ってもそのリアルさ。
朝井リョウさんは本当に「人間」を描くのが上手くて、どうしてこんなにも人間のリアルが分かるんだろうといつも思うのですが、朝井作品の中でも「何者」は群を抜いてリアル。
この作品でテーマとなっているのは、SNS、就活、そして人間。
私がこの本を初めて読んだのは大学入学直前だったんですけど、その時はリアルさに衝撃を受けました。
でも、大学3年の今読むことで、あの時以上にこの本のリアルさを感じました。
就活生って、SNSに色々書き込む人多いですよね。
「今日は面接頑張らなきゃ」とか、
「ESの添削をしてもらった」とか、
「自己分析って大切」とか、
それって何のアピール?
それを書き込む意味は何?
私頑張ってるんですアピール?
周りへの牽制?
誰かに認められたいから?
何てくだらないんだろう。
何て馬鹿らしいんだろう。
SNSにどれだけ書き込んだって内定がもらえるわけじゃない。
なら書き込むことで得られるものは何?
それは、
優越感。
私は頑張ってる。
それをみんなに知ってほしい。
別に黙々と頑張ればいいのに、
人は誰かにその頑張りを知ってほしい。
SNSというものができてから、
人は更にその欲望に忠実になった。
でもその呟きを見ている人は、
本当はどう思ってるのか。
陰で見下しているかもしれない。
それでもあなたのその呟きに「いいね」をする。
ああ、何て薄っぺらいんだろう。
上辺だけの、建て前だけの、付き合い。
だけどそれが、このSNS社会の、若者社会の現実だ。
ツイッターは人を、自分が自分でない「何者」かになったような気分にさせてしまう。
どこかの評論家を気取って物事を批判してみたり、
人を斜め上から見下して分析をしてみたり、
他人の悪口を呟きまくったり。
そんなあなたは何者ですか?
面と向かって言う勇気もないくせに、何様のつもりですか?
発信者の顔が見えないツイッターは人間を変えてしまう。
私の周りにも、ツイッター上では別人ではないかというくらい偉そうな態度の人がたくさんいます。
ツイッターは人間の悪の心を引き出してしまうのです。
人は本音より、建て前で生きている。
就活のような場合は尚更。
あなたは本音で生きていると言えますか?
友人の幸福に嫉妬をしたことはないと言えますか?
自分の方が優れていると思ったことはないと言えますか?
平井堅さんの歌で
「グロテスクfeat.安室奈美恵」
というものがあります。
この歌の歌詞がすごく私の心に刺さりました。
(ちなみに作詞は平井堅さん)
「アイツの幸せ喜べますか?」
「あのコのもの欲しがってませんか?」
「果たして自分は特別ですか?」
「アイツの不幸せは好きですか?」
「あのコと本音で喋れてますか?」
「心であざ笑ってないですか?」
人は建て前で生きている。
だけどそれを認めたくない。
自分は汚い人間だと思いたくはない。
そんなことはない。
「何者」を読めば、そう突きつけられる。
ページをめくるごとに、自分のベールが剥ぎ取られ、汚い心が露わになる。
こんなにも心に刺さった小説は初めてでした。
心がえぐられるようだった。
見透かされるようだった。
誰もが突きつけられる。
見たくない、隠してきた、自分自身というものに。
「何者」は、今を生きる私たち自身の物語なのです。